林業は、自然と向き合う仕事でありながら、全産業の中でも労働災害の発生率が特に高いイメージがあります。
とくに木を伐採する際や「かかり木」処理中の事故は、命に関わる重大なケースも少なくありません。
本記事では、林業事故の実態と防止策、そして死亡災害の背景をわかりやすく解説します。
伐採と伐木の違いとは?|林業用語の正しい理解

林業の現場でよく使われる「伐採」と「伐木」。似ているようで、実は役割や意味に違いがあります。
- 伐採(ばっさい):森林に生えている立木を切り倒すこと全般を指す、より広義な用語。山林の整備や間伐の一環としても用いられます。
- 伐木(ばつぼく):伐採作業の中でも、特に作業行為としての“木を切る行為”そのものを指します。伐採よりも現場作業寄りのニュアンスが強くなります。
つまり、伐採は計画・整備含めた上位概念であり、伐木は実際に木を切る作業そのものと理解するとわかりやすいでしょう。
林業は伐採作業中に起きたかかり木などの事故が非常に多くなっています。
林業事故とは?|労働災害の中でも高リスクな背景

林業 労働災害と作業環境の特徴
林業は、傾斜地や不安定な足場での仕事が多く、天候や地形による影響も大きい産業です。
重機やチェーンソーなどを扱う場面も多く、危険を伴う工程が日常的に含まれています。
その結果、全産業の中でも死亡災害率が極めて高いという特徴があります。
伐採作業・かかり木処理のリスクとは
とくに伐採時の「かかり木」処理は重大事故の原因になりやすいポイントです。
誤って他の木に引っかかって倒れない「かかり木」は、判断ミスや不適切な処理で予想外の方向に倒れる危険があります。
こうした現場特有の危険が、林業の労働災害をより深刻にしている要因の一つです。
林業の死亡事故の現状と発生率

林業の死亡率は、全産業平均と比較して数倍〜十数倍に達することもあり、突出した危険性が指摘されています。
「千人率(1,000人あたりの災害件数)」の観点でも、林業は常にワースト上位に位置しています。
こうした死傷者 数の割合からも、林業は特に死亡災害が発生しやすい産業であることが明らかです。
発生件数・死亡者数の推移データ(最新統計)
林業における死亡災害は、ここ数年でも毎年20件以上発生しており、依然として高い水準で推移しています。
厚生労働省が公表するデータによると、林業の労働災害発生率は他産業と比べて圧倒的に高く、改善の兆しは見えていません。
特に、高齢作業者の比率が高まっていることも、事故の要因の一つとされています。
林業災害の防止対策|現場で取れる具体的な行動

安全講習・KY活動の徹底と伐木前の確認
林業現場では、伐木作業に入る前の安全確認とKY(危険予知)活動が重要です。
たとえば、森林の傾斜や周囲の樹木の倒れ方、かかり木の可能性などを言葉で事前に共有するだけでも、災害のリスクは大きく低減できます。
作業者同士が情報共有し、次の作業を始める前にしっかり退避ルートを確認することが求められます。
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山林作業の可視化とデジタルツールの導入
最近では、命を守るサポートするデジタルツールも注目されています。
たとえば、作業開始・終了時に位置情報を共有できるアプリや、災害発生時にSOSを即時発信できるシステムなどが整備されつつあります。
こうしたツールを活用することで、間伐や伐木中に木が倒れる方向の共有、異常時の迅速な対応が可能になります。
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林業事故が減少しない理由|制度と実態のギャップ

事業体の安全教育と労災防止努力の現状
多くの林業事業体では、安全講習の実施や労働災害防止協会への加入など、一定の努力が行われています。
しかし、実際に現場で活用できる知識や訓練にまで落とし込めているケースは限られており、教育の質に差があるのが現状です。
また、小規模な事業体ではコストや人手不足を理由に、安全対策が形骸化してしまっていることも少なくありません。
高齢化・少人数作業・雇用形態の課題
林業の現場では、高齢化が進行し、年齢層の偏りが深刻化しています。
さらに、少人数での作業や個人請負といった不安定な雇用形態が多く、確認が十分に行われないまま作業が始まることもあります。
こうした背景もあり、制度上は対策が進んでいるように見えても、実際の災害発生件数がなかなか減少しないというギャップが生まれています。
災害発生のデータ内容と図で見る林業の実態|数字が語る現場
図解で見る死亡者数と発生度合

林業における死亡者数や災害発生件数は、他産業と比較しても非常に高い水準にあります。
以下の図表を見ると、年間の発生度合がほとんど変わらず推移しており、明確な減少傾向が見られないことが分かります。
また、年齢別の死傷災害件数においても、高齢作業者に集中しているという特徴があり、安全対策が追いついていない現状を浮き彫りにしています。
次に向けた「減少傾向」と「択伐」への期待
近年では、集材や択伐といった作業の効率化が進み、安全性の向上も模索されています。
とくに森林資源を守りながら災害リスクを下げる択伐方式は注目されており、今後の林業災害防止の一手として期待されています。
ただし、こうした施策の成果が「数字に表れる」のはまだ先のことであり、現場の努力だけに頼らず制度的な支援も必要といえるでしょう。
林業の死傷災害をどう防ぐか|製造業との比較と防止策の違い
製造業・建設業との比較で見える林業の特殊性

製造業では、作業の自動化やマニュアル化が進み、一定の安全水準が確保されているのに対し、林業は屋外かつ自然環境下での不規則な作業が多いため、災害リスクのコントロールが難しいのです。
さらに、林業の現場は規模的にも少人数・高齢化・個人請負が多く、制度として徹底しにくいという構造的な課題を抱えています。
林業・木材製造業の災害防止に必要な視点とは
林業だけでなく、日本の木材製造業においても回転機械や大型設備を扱うことから、労働災害のリスクは依然として高い傾向があります。
こうした産業では、
「教育の徹底」
「定期的なリスクアセスメント」
「労働者の健康管理」
が重要視されており、林業でも同様の取り組みが求められています。
今後は、制度やマニュアルだけでなく、現場に即した安全文化の構築が目的として必要不可欠です。
現場関係者の声と安全確保の課題|小規模現場の実態
安全が後回しになる背景と「山」の実態
小規模な林業事業体では、作業効率や納期が優先され、安全対策が後回しになるケースもあります。
現場では、「とりあえず山に入る」という意味が根強く、作業手順の確認や退避ルートの設定が省略されてしまうこともあるのです。
こうした実態は、林野庁が推奨するガイドラインと現場の運用に乖離があることを示しており、関係者からも『制度と実情がかみ合っていない』との声が上がっています。
まとめ|数字の裏にある「命」を守るために

林業は、自然を相手にするからこそ、一歩間違えば命に関わる作業です。
制度やデータだけでは見えない現場の声に耳を傾け、“安全”を当たり前にする取り組みが今こそ必要とされています。
一人ひとりの意識と、現場を支える仕組みの両輪で、未来の災害ゼロを目指していきましょう。