漁業×ITの導入事例とこれから|古宇郡漁協・通信漁連・なぎさ信用漁協の取り組み【2025年版】

近年、漁業 ITという言葉が注目を集めています。かつては経験と勘に頼っていた漁業の世界にも、データ情報を活用した“スマート漁業”の波が押し寄せています。
特に、漁業協同組合(漁協)が主体となり、地域ごとの実情に即したIT導入が進んでいるのが特徴です。

たとえば、古宇郡漁協北海道通信漁連などは、ITを活用した水産資源の管理販売の効率化広報活動のデジタル化に積極的に取り組んでいます。

さらには、金融機関としての役割を担うマリンバンクなぎさ信用漁協組合連合会なども、ITによって業務効率や会員サービスの向上を図っています。

こうした流れは、生産性向上だけでなく、組織改革若手人材の定着にも直結。
この記事では、漁業とITの融合がもたらす変化を、実際の事例や取り組みを交えて分かりやすく解説します。

目次

漁業にもIT革命の波|なぜ今、漁協にデジタルが必要なのか?

市場

漁業者が抱える課題と「IT化」の可能性

現在の漁業現場では、人手不足高齢化、そして気象変動による漁場の変化など、さまざまな課題に直面しています。
特に中小規模の漁業協同組合(漁協)では、データ管理や事務作業の負担が大きく、限られたスタッフでの対応が求められています。

こうした背景から、ITの導入=業務効率化の鍵として注目されており、

  • 会員管理のデジタル化
  • 金融機関業務のクラウド対応(例:マリンバンク)
  • 広報紙や情報発信のオンライン化

IT化は、ただの業務簡略化ではなく、若手漁業者の定着経営の見える化にもつながる手段として、今後ますます重要性を増していくでしょう。

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水産資源の把握・漁獲物管理への活用例

ITの活用は、漁獲物や水産資源の管理にも大きな可能性を秘めています。
たとえば、GPSやセンサーを使った漁場の位置情報の記録や、日々の漁獲データの蓄積・分析を通じて、

  • 漁獲量の安定化
  • 過剰漁獲の防止
  • 季節ごとの漁獲傾向の可視化
    といった持続可能な漁業への一歩になっています。

実際に、北海道通信漁連では通信インフラを活かし、リアルタイムな海況情報漁業者間の連携支援が行われており、現場の判断精度が飛躍的に高まっているとの声も聞かれます。

これらの事例は、漁業者が“感覚”だけでなく“データに基づいた判断”を行うことで、生産性と資源保護を両立できる未来の可能性を示しています。

安全面でも進む漁業it|漁業協同組合に所属する漁師の安全に応える「かけつけ」

漁業の現場、とくにでは、気象の急変や事故のリスクが常につきまといます。
こうした背景から、安全管理を目的としたIT導入が徐々に進られており、「命を守る手段」としての注目も高まっています。

その一例が、「かけつけ」アプリです。
このアプリは、SOS発信時のみリアルタイムで現在地を共有でき、船上や沖合でトラブルが起きた際、漁協や仲間へ瞬時に通知されます。

さらに、日常のチェックイン機能を使えば、

  • 「今日は○時から漁に出ています」
  • 「今、水揚げして戻りました」
  • 「これから漁にでます」
  • 「明日の氷運んでいる」

といった行動の見える化が可能。
これにより、漁の段階ごとに家族や関係者へ安全を伝えることができ、万が一の際にも素早く状況把握ができる仕組みです。

現在、青年部を中心にこうしたデジタルツールの現場導入が進んでおり、実際の漁協からは「こういう機能が欲しかった」という声も。
地域の特性やニーズに応じた機能開発が進めば、今後ますます実用的な段階へと進化していくと考えられます。

漁業協同組合の取り組み事例【2025年版】

港にとまる船

和歌山県 古宇郡漁協のICT導入事例

和歌山県・古宇郡漁業協同組合では、早期からICT(情報通信技術)を導入し、会員管理や出荷調整、水揚げ記録のデジタル化を進めています。
これにより、漁業者の作業負担を軽減し、経営の効率化と透明性の向上を実現しています。

また、漁協内には青年部も設置されており、若手漁業者が中心となってデータ入力やアプリ操作の習得に取り組むことで、ITの現場定着も加速中です。
特に水揚げ量のリアルタイム共有は、鮮魚の販売計画や配送手配にも直結しており、地域経済への波及効果も見込まれています。

北海道通信漁連が支える海とデータのインフラ構築

広大な海域を有する北海道では、北海道通信漁業協同組合連合会(通信漁連)が、漁業者向けの無線通信インフラ海況情報配信サービスを整備しています。
このインフラは、海上の船と浜の拠点をつなぎ、リアルタイムで海の状態や漁場の変化を共有することで、漁業の安全性と生産性を大きく向上させています。

また、今後はこの通信網を活かして、漁場の混雑状況や資源状態の可視化など、より高度なIT活用が期待されています。

金融機能もIT化へ|マリンバンク・なぎさ信用漁協連の挑戦

マリンバンク(JFマリンバンク)やなぎさ信用漁業協同組合連合会は、漁協がもつ金融機能のIT化にも注力しています。
たとえば、オンラインバンキングの導入ペーパーレスの資金管理は、支店を持たない場所でも迅速な対応や相談を可能にしています。

また、組合員のライフステージに合わせた貯金・保険・融資サービスのカスタマイズ化など、利用者ニーズに応じたシステム開発も進行中です。

今後はさらに、スマホからの照会・取引機能なども拡充され、漁業者の「浜でも金融アクセスできる時代」が本格化していく見込みです。

現場で進む“スマート漁業”の実装内容とは?

魚の重量が分かるチェッカー

GPSとIoTによる操業データの可視化

漁業の現場では、GPSIoT機器を活用したリアルタイムデータの収集が始まっています。
特に、海上での操業位置・水温・海流の変化を可視化することで、水揚げの効率化燃料の節約といった具体的な影響をもたらしています。

これらは漁協や外部事業者との協力によって進められており、導入初期には現場での指導や助言が重要なポイントとなっています。

AIによる漁場予測と持続可能な漁獲

AIの活用により、過去の漁獲データや気象条件を学習し、ナマコイカなどの漁場を予測するシステムも開発が進んでいます。
これにより、過剰漁獲の防止効率的な操業計画の立案が可能になり、漁業の持続性と環境保護の両立が現実味を帯びてきました。

漁協のホームページ上では、こうしたシステムの稼働状況や運用結果を内容別にまとめたレポートとして掲載する例もあり、関係者の理解促進にもつながっています。

加工・販売もスマート化|浜から“店舗”までつなぐ仕組み

スマート漁業は、漁獲から販売・加工までの一貫管理にも波及しています。
たとえば、水揚げされたアワビ加工品の在庫情報がリアルタイムで更新されることで、直営店舗や都市部のECと連携し、即日出荷・即日販売が可能に。

漁業者自身ので販路を広げる新しいスタイルの漁業として注目を集めています。

今後は、以下のようなステップでの拡張が予定されています:

  • データに基づく価格調整の自動化
  • 加工施設とのAPI連携
  • 店舗別売上の可視化と分析

IT導入がもたらす漁協の変化と今後の展望

船と救助用の浮き輪

商品開発と「協働」の新たなかたち

近年では、漁業者と地元企業や教育機関が連携し、サケサクラマスウニなどの地域ブランド魚を活かした商品開発が進んでいます。
こうした取り組みは、単なる販売強化ではなく、地域全体で水産業を育てる“協働”の形として注目されています。

とくに漁業経営の若返りや多角化を目的としたプロジェクトでは、地元高校とのコラボや、地域イベントでの試食・販売も行われ、商品づくりを軸に人材育成にもつながる効果が生まれています。

漁協の組織運営もデジタルで変革へ

IT導入は、漁協の内部組織にも大きな変化を与えています。
たとえば、北海道庁の補助事業を活用したクラウド管理体制の整備では、本店と各支店の情報共有がリアルタイムで可能となり、文書業務や出荷データの統合管理が実現しました。

また、組合内で使われてきた各種業務名の通称の統一・デジタル化も進められており、将来的には自動化された記録管理と法対応の簡略化も期待されています。

漁業者・代表者・お客さん…多様な関係者がつながる仕組み

「漁業=現場の人だけの産業」というイメージは、すでに過去のもの。
現在は、漁協代表者が集まるデジタル会議でのDX進捗報告や、都市部からの観光客(客)向け体験プログラムの予約管理など、ITを介した外部とのつながりも強まっています。

今後は、漁業現場を支える全員が役割と情報を共有し合う関係性へと進化することで、
より効率的で、持続可能かつ幸せな水産業の実現に近づいていくでしょう。

デジタル化のその先へ|人と水産業をつなぐ次の一手に”安全”を

スマートウォッチでアプリを使う

デジタル活用が進むなかでも、「人を守る」視点は決して忘れてはなりません。
その点で注目されているのが、かけつけアプリのような現場特化型の安全支援ツールです。

魚礁周辺での操業時や不安定な天候下でも、SOSやチェックイン機能により、仲間との連携を可視化し、水産業における安全の品質向上にもつながっています。

漁業の基本理念には「命を守る」「資源を未来につなぐ」などの思いが含まれています。
デジタルの力で他の業界に劣らない持続可能な形を築いていくことこそ、今まさに求められる“次の一手”ではないでしょうか。

水産物の価値を高めるのは、テクノロジーではなく「人」
その“人”が力を発揮できる環境を、今こそ全員で整えていきましょう。

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